すでにNTTドコモなど大手各社は最大4割の値下げとなる新料金プランの提供を開始。契約を中途解約した場合の違約金の上限を1,000円に、“2年縛り”といった期間拘束がある場合とない場合の料金格差も月額で上限170円に、スマホなどの端末販売に際する値引き額も上限2万円に規制される。
10月には楽天モバイルの携帯電話市場への本格参入も始まった。キャリア各社の収益構造や勢力地図にも大きな変化が迫られる可能性もある。
顧客の流動性拡大が値下げ圧力に
一連の携帯料金の値下げは、通信行政を管掌する総務省の強い意向に基づくものだ。総務省はかねてより日本の通信費は諸外国と比較しても高いと認識。2018年夏には官邸筋からも“料金を4割程度下げる余地があるはずだ”といった話が出ていた。10月に施行された“違約金の上限を1,000円に”という施策は、その中核をなすもの。解約を容易にすることで、利用者のキャリア間の流動性を高め、競争させることで料金の引き下げやサービス向上を促す。
現在携帯各社は“2年縛り”などの期間拘束がある契約を、拘束のない契約よりも1,500~2,700円程度安価に提供。そのかわり、途中で契約解除する場合の違約金はNTTドコモの場合で9,500円など高額。
各社はこの仕組みで社への顧客流出を抑えてきた。今後違約金上限が1,000円になると、こうした“縛り”は効かなくなるとの見方があり、そこが総務省の狙いでもある。
違約金以外にも多い手数料
ただ、11月以降はだれもが総額最大1,000円で“他社への乗り換え”ができる、というわけでもなさそうだ。というものも「法の不遡及」といった原則もあり、現行契約は維持されることになりそうだからだ。低額化の恩恵を受けるためには、今後出てくるとみられる“1,000円以下の違約金”が盛り込まれた新プランに移行するなり、契約をし直す必要がある。
加えて“他社への乗り換え”となれば、乗り換え先キャリアに契約事務手数料(概ね3,000円前後)を支払う必要がある。電話番号を引き継ぎたいとなると、「MNP転出手数料」も必要。これも3,000円程度のところが多い。
もっとも、これは現在でもかかる費用であり、11月以降は乗り換え費用が大幅に下がることにはなる。
問われる料金以外の差別化策
新ルールは新規参入業者に有利だとされている。10月から本格参入へと動き始めた楽天モバイルはこの変化を追い風に契約者を増やしたいところだ。携帯端末の普及はもはや限界に達している。新規事業者にとっての契約者獲得は、他社からの流入が中心となる。顧客の流動性が増すことはプラス要因だろう。とはいえ、“格安”を売りにするMVNOも多く、料金競争には限界がある。かといって、通信品質で新規参入企業が優位に立つのも至難の業だ。今後は料金以外の差別化策も大いに問われる。
それとともに、一連の料金引き下げなどで減益が見込まれるNTTドコモなど大手事業者は、今後の「5G」サービスも含め、中期的には値上げ方向の見直しもありえそうだ。
まとめ
今後、違約金の引き下げがある半面で、期間拘束型のプランのうまみや端末価格の値引き減少に伴う高額化がありえるだろう。新プランの料金についても中期的には流動的だ。機種交換や契約変更は総額をもれなく比較した上で検討する必要がありそうだ。
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【コラム執筆者】
青山博美(あおやま ひろみ)
フジサンケイビジネスアイ企画委員、編集委員
1965年、東京生まれ。
1990年、日本工業新聞社(現・フジサンケイビジネスアイ)入社。
以来、日本工業新聞やグループの産経新聞、フジサンケイビジネスアイの記者として、電機・電子産業、通信、エンターテインメントビジネス(ゲーム、映画、パチンコ、カジノなど)、エネルギー(石油、ガス、電力など)、運輸(航空、鉄道、陸運、海運、旅行その他)、建設・不動産、財界(経団連、商工会議所、経済同友会など)を取材。
目下のテーマは日本経済の活性化で、地方創生や中小企業振興、企業経営、コーポレートガバナンス、遊技産業を含むエンターテインメントビジネスに関する大型特集などを展開している。
1990年、日本工業新聞社(現・フジサンケイビジネスアイ)入社。
以来、日本工業新聞やグループの産経新聞、フジサンケイビジネスアイの記者として、電機・電子産業、通信、エンターテインメントビジネス(ゲーム、映画、パチンコ、カジノなど)、エネルギー(石油、ガス、電力など)、運輸(航空、鉄道、陸運、海運、旅行その他)、建設・不動産、財界(経団連、商工会議所、経済同友会など)を取材。
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