ネットワーク,中立性,電波法

携帯規制の根底にある電気通信事業法とネット中立性

違約金の上限を1,000円にすることや端末の値引き上限を2万円とすることなどは、総務省の省令改正でルール化されることになる。そんな省令だが、それらの根幹を成しているのは「電気通信事業法」という法律だ。

この法律の改正案が2019年3月に関連する「電波法」とともに閣議決定され、同5月に公布されている。省令改正もこの法改正に伴うもの。同法は10月に実施されることとなった。

電気通信事業法は携帯電話のみを対象とするものではないが、今回の改正では携帯電話関連の規制が焦点となった格好だ。

電気通信の発達と国民の利便確保

電気通信事業法は1984年12月にできた法律だ。日本で第1世代移動通信システム(1G)がスタートしたのは1979年。同法は、移動体通信の将来の普及も見越し、「電気通信の健全な発達と国民の利便の確保を図るため」に制定されたものだ。

中でも当初から重視されてきたのは「秘密の保護」だった。当時の携帯電話はアナログ式であり、通信機で傍受することも可能だったが、電話はラジオ放送などとは違う。

無線通信に限ったことではないが、同法は電気通信事業者に対しても取り扱う通信の秘密を「侵してはならない」とし、違反した場合は「二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」という罰則も設けた。

通信と端末の完全分離を“補強”

この法律は、電気通信の発達や普及に伴い幾度もの改正を経ている。携帯電話が大きく発展し、社会の重要通信インフラとして定着するにつれ、規制対象は有線通信などに加え携帯通信サービスの利便やサービス料金に関することなどにも広がってきた。省令改正を伴う今回の法改正でも、そうした傾向が色濃い。

そんな今回の改正のテーマは、携帯電話関連に限ると“通信料金と端末代金の完全分離”だ。さらに“行き過ぎた囲い込みの禁止”と“販売代理店の届出制”も盛り込まれた。

端末代金の分離は、大手の携帯電話会社が先行してすでに実施している。違約金や端末値引きの上限金額などは、こうした流れをより確実にするための“補強”といえるものだ。

今秋以降はかつてない大変革期

改正法も含め、携帯電話関連で通信行政が目指しているのは料金の低廉化である。そのための“通信料金と端末代金の完全分離”だが、実は端末をいくらで売るかについては本来この法律の範疇ではない。

今回規制されるのは“端末購入を条件とした割引など”に限られる。つまり、何かの条件で通信料金を割り引くのは禁止、ということだ。

このため、ポイント還元などは規制の対象にはならないが、一部機種に対するキャッシュバックやデータ通信量や動画コンテンツ視聴の特典提供などは通信料金の割り引きとみなされ認められない。

ただ、総務省にとっても来年春からサービスが始まる「5G」については悩ましい問題だろう。利用者の「5G」への乗り換えを促したい半面で、規制を逸脱したインセンティブを認めるわけにもいかない。ルールの改正や新規参入、通信システムの世代交代が交錯する今秋以降の動きはかつてない大変革期ともいえそうだ。

米では撤廃に動く〝ネットの中立性〟

「インターネット中立性」とか「ネットの中立性」などという言葉を聞いたことがあるだろうか。米国ではこのところ、このテーマが議論になっている。

ここでいう“中立性”とは、インターネットの接続業者(ISP)などが“ネット上のコンテンツをどれも平等、公平に扱うこと”である。

ISPによって特定のコンテンツが見られない、速度が遅い…といったことのないようにするということだが、米国の通信関連規制などを手掛ける連邦通信委員会(FCC)は2017年末、自ら作った「ネット中立性」を維持するための規制を撤廃すると決定した。これは一体どういうことなのか。

米国を中心に具体的な議論

「ネットの中立性」という言葉は米コロンビア大学のティム・ウー教授が2003年に生み出したもので、一般的にはインターネット上を流通するデジタルコンテンツなど“トラフィック”の「公平な取り扱い」を保証することとして理解されている。

ただ、こうした考え方は150年以上前のモールス信号を使った電信の時代からあった。電気通信が飛躍的に発展し始めた今世紀からは、米国を中心にこれらが具体的な議論となっている。

平等で自由だからこその発展

インターネットを利用したサービスや産業は1995年に米マイクロソフト社による基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」の投入を機に世界規模で急拡大していく。インターネット上に広がる“サイバー空間”は自由で平等、時間や距離のハンデもない世界だ。

『国富論』を著し経済学の父ともいわれるアダム・スミスは、経済発展の条件として富を奪われない権利や公平・中立性とともに“自由”を挙げているが、サイバー空間はそれらを備えた時代の“経済基盤”ともいえる。現にここからは現在世界を席巻している多くの企業群が生まれた。これは「ネットの中立性」があったからこそだと考えられる。

中立性めぐる法制は二転三転

しかし2000年頃からは「ネットの中立性」に異論がではじめる。トラフィックの増大でネットワークの維持や運用に費用がかかり、ISPなどがその経済的負担に疑問を呈し始めた。

これに対し2015年、米国のオバマ大統領(当時)は“中立性はネットの発展を支える土壌”だとしてネットの中立性保護のための法律を整備した。ところが、その後も増加を続けるトラフィックを前に「中立性ルールが企業成長の障害だ」という声が台頭。2017年にトランプ大統領が就任するやいなや、この中立性ルールを撤廃した。

背景には米国ISPの“事情”も

では日本ではどうか。日本ではこうした議論もなしに大容量データが制限されているケースもあるとされる半面で、米国のような大きな議論にはなっていない。

この背景には、日本の通信環境が比較的優れているということがある。米国では都市部を除けば多くの場合ケーブルテレビ会社がISPを兼ねており、速度も遅く選択肢も少ない。そうした米ISPの“台所事情”と“儲からない設備投資”に対する意欲の問題が根底にはあると考えられる。

光ファイバー網や今後の5Gも含め、通信環境が全国均一かつ適宜更新されてきた日本では実感のないテーマとなっているのもそのためだろう。

まとめ

日本の現在の通信事情では特定のコンテンツを制限する必要がさほどないが、トラフィックの増大は今後も続く。

やがては、世界規模で中立性を議論する必要もでてくるのではないだろうか。

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【コラム執筆者】
青山博美(あおやま ひろみ)  フジサンケイビジネスアイ企画委員、編集委員

1965年、東京生まれ。
1990年、日本工業新聞社(現・フジサンケイビジネスアイ)入社。
以来、日本工業新聞やグループの産経新聞、フジサンケイビジネスアイの記者として、電機・電子産業、通信、エンターテインメントビジネス(ゲーム、映画、パチンコ、カジノなど)、エネルギー(石油、ガス、電力など)、運輸(航空、鉄道、陸運、海運、旅行その他)、建設・不動産、財界(経団連、商工会議所、経済同友会など)を取材。

目下のテーマは日本経済の活性化で、地方創生や中小企業振興、企業経営、コーポレートガバナンス、遊技産業を含むエンターテインメントビジネスに関する大型特集などを展開している。


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